雨上がりの日曜日
  ある日、少年は学校の放課後
いつもの帰り道を通っていると
綺麗なピアノの音色に足を止める
音の方向を見ると大きな洋風のお屋敷だ
何気なく音色にしばらく耳を貸し
フッと我に帰り
また、家路につく
次の日、いつもの帰り道
大きなお屋敷が見えてくると
アッと昨日のピアノの音色を思い出す
昨日と同じ‥‥耳を貸し
歩き出す
3日、4日、5日‥‥少年は帰り道
お屋敷の塀へ背中をつけ腰を下ろし
音色を聞くことが習慣となっていた
学校がお休みの土曜、日曜日も学校へ行き
1日の授業が終わる時間に学校を出て
いつもの帰り道を通る
いつも通り‥ピアノの綺麗な音色が少年の耳に入ってくる

少年はいつしかピアノの音色に恋していた
その音色のコト‥どんな人が弾いているかを‥‥
少年は手紙を書く

『ピアノの方へ
とても、綺麗な音
聞かせていただいてます。』

とても、短い手紙
だか、今の少年の精一杯の言葉

次の日、いつもの帰り道
いつものお屋敷‥今日はピアノの音色がしない
気になって、気になってどうし様もなく
少年は塀をよじ登り‥お屋敷を見た‥‥
一階の少年がいる塀の側の窓にピアノと綺麗なでどこか儚く繊細な少女がいた
少年は驚いて塀から落ちてしまった
すると、ピアノの音色が耳に入って来た

それから、少年はピアノを聞いた後‥少しだが少女と会話を交わすようになった
少年は学校の出来事、家族のコト、いろいろと話す
少女は自分が病気だと言うコト、両親は遠くで暮らしているコトを話した

毎日、当たり前の様に二人は話しお互いのコトを
確実に確かめ合っていると思っていた

雨上がりの日曜日、いつもの様にピアノの音色に耳を貸し少女と会ってから
何気なく街を歩いていると‥古いアンティークショップのウインドウに
綺麗で可愛らしいブローチを見つける
少年は少女にプレゼントしたくなり
今自分に出来る範囲で働いて少しずつお金を貯めるコトにした
少女には内緒で‥働く為に時々来れないトキも
少女には家の用事と嘘を吐き‥‥

土曜日、今日でお金が貯まる少年はチョットした用事で学校に来ていた
職員室の方から小さな声で『‥‥あのお屋敷で‥‥黒い服‥‥』
歩いていた少年は気にもしずに通り過ぎた‥‥

雨上がりの日曜日、少年は財布に手をあてて
嬉しそうにアンティークショップでブローチを買う
少年は、どうしても早く渡したくて
ブローチと一緒に自分がコレから一生懸命勉強して、医者になり
少女の病気を絶対に治す
そして、もう一つの少年の気持ちを伝え様と‥

お屋敷につき‥ピアノのある窓へ行くと‥誰もいない
その部屋だけでなく‥お屋敷全体から人の姿や音すら‥
少年は昨日学校の職員室で微かに聞こえた言葉を思い出す‥‥

それから、少年は学校の帰り道‥
いつものお屋敷の
いつもの塀へ背中をつけ腰をおろし
しばらくの間‥ぼぉ〜っと‥耳を澄まして
それから家に帰り勉強を始める
これから、いつか、また、少女に逢う為に逢った時の為に
そして、この先誰も少女の様に
自分の様に悲しい思いをさせない為に‥‥


ピアニシモ

少女は…ピアノの音にココロを乗せて遊んでいた
誰に聞かせるでもなく
ただ自由にならない身体のかわりに…心を流していた

雨上がりの午後は
ピアノの音が少し曇るけれど
それがまた湿った空気に溶け込んでしまうようで
少女は好きだった

少しだけ窓を開けて
いつものようにピアノを弾く
他にはなにも出来ない少女の

私はここに居る

小さな独り言にも似た旋律を奏でながら

そんな時少女の胸をよぎるのは
窓辺に見える風景に通り過ぎる一人の少年の姿

少し思いつめたような瞳と
肩まで届くくらいの髪
無気力に足を引きずるような独特の歩き方
ちょっと猫背で…ポケットに両手を突っ込んで…
少年はなぜかいつも一人で…
少女もいつも一人だったから
少女は聴いて貰いたいような気持ちで弾いていた
その少年の通る時間に合わせて…弾き始めてからは

ある時短い手紙が届いた

差出人の名もない
でも…少女の“音”を綺麗と言ってくれた

次の日
少女は待っていた
2階の自室から階下にピアノを下ろしてもらい
窓を大きく開いて塀の方を見つめて…
少年が少し前からそこに座って聞いていてくれることに気付いていたから
長く伸ばした髪を指先でもてあそび…
持て余すような焦燥を抑えて…
待っていた

ふいに塀の上に少年が顔を覗かせる
その瞳が少女の姿を捕らえると…転がるように落ちてきた
そして少女は弾き始める
静かに滑らかに…ピアニシモで始まる曲を

曲が終わると
驚いた顔で
怒ったような顔で
ひざについた汚れも払おうとせず
少年は窓辺に歩み寄る
少女は…大きく息を吸い込んで
胸の中の…フォルテシモで響く“音”のせいで
上擦りそうになる声を
確かめるように言葉にしていった

その日から少女は
時間になると小曲をいくつか弾く
塀の向こう側ではなく
窓枠の下の地面に座っている少年のために…
少年はいつもピアノの音が止むまでそこに居て
それから少しだけ怒ったような顔で
僅かな時間…窓枠越しに少女と話す
とりとめも無い会話を終えると
少年は逃げ出すように去っていく

そんな日々が続いたある日
少年がいつものように話さないことに気付いた少女は
そのことを問うた
少年は瞳を逸らしてボソボソと
これからはあまり来れないというような事を言った
少女は…
少しさみしそうに微笑み
これる時に来てくれればいいと…それだけを伝えた

少女は…病が自分を遠いところへ運ぼうとしていることに気付いていた
もう鍵盤を叩く指に力がなく
一日に一曲弾くと…疲れきってしまっていた
ピアニシモに近づいていく胸の“音”とともに
別れが近づいていることも知っていた

そして…
ほどなく
ピアノは運び出された
少女の胸の音が止んだその日に
   

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